ウクライナ侵略1年

ラグビーに専念、不安振り払うように… 静岡県に避難のナタリヤ・コザチュクさん

試合でタックルを受けるナタリヤ・コザチュクさん(中央)=昨年9月、静岡県袋井市のエコパ補助競技場(静岡県ラグビーフットボール協会提供)
試合でタックルを受けるナタリヤ・コザチュクさん(中央)=昨年9月、静岡県袋井市のエコパ補助競技場(静岡県ラグビーフットボール協会提供)

江戸時代に東海道五十三次の宿場町として栄え、江戸と京都の中間地点だったことから「どまんなか袋井宿」と、アピールする静岡県袋井市。その市街地から少し離れた「県小笠山総合運動公園エコパ」がウクライナ人女性のナタリヤ・コザチュクさん(25)の新たな舞台だ。

「ベストプレーで応えたい」。コザチュクさんがエコパを拠点とする女子7人制ラグビーチーム「アザレア・セブン」に加入したのは昨年8月。タックルなどコンタクトプレーが得意だ。ウクライナ代表に選ばれた経験もあり、期待の大型新人として話題を呼んだ。

ウクライナのリビウで暮らしていたが、侵略後はラグビーができる環境ではなくなった。不安を抱えている時期に、チームを運営する「アザレア・スポーツクラブ」による人道支援とチーム強化に向けた選手募集に応じ、単身で来日した。

女子ラグビーチーム「アゼレア・セブン」のウクライナ人選手、ナタリヤ・コザチュクさん=静岡県袋井市(青山博美撮影)
女子ラグビーチーム「アゼレア・セブン」のウクライナ人選手、ナタリヤ・コザチュクさん=静岡県袋井市(青山博美撮影)

「ナタも入って!」「ナタ、もっと左へ!」

平日の午後6時ごろ。夜間照明が点灯する中、エコパでの練習は実戦さながらだ。機敏な動きをみせるコザチュクさんはチームメートらから「ナタ」と呼ばれ、すっかりチームに溶け込んでいた。

当面の目標は、エコパスタジアムで3月下旬に開かれる今年度の女子7人制ラグビー公式戦「リージョナルウィメンズセブンズ2022」に勝利することだ。参加9チームのうち上位4チームに入ると、来年度からコアチームとして大会に出場する権利が得られる、いわば1部リーグのような位置づけで、コアチームへの「昇格」はチームの悲願でもある。

アザレア・スポーツクラブの副理事長でチームのゼネラルマネジャー、山本純生さんは「ナタやチームメートも含め、みんなの頑張りには目を見張るものがある。頼もしい」と絶賛する。

ラグビーに汗をかく一方、語学の習得にも余念がない。

日中は浜松市の日本語学校に通い、それ以外でも時間があれば袋井、掛川両市の日本語教室に顔を出す。「週6日は学校で日本語を勉強しています。日本語は難しいが、勉強は好き」

ウクライナ語のほか、ロシア語や英語もある程度は会話できる。文法も文字も異なる日本語には苦戦しているが、チームメートとのコミュニケーションを含め異国で暮らす上で、言葉の壁を乗り越えることが重要だと考えている。

来日から約半年。「なじむのに少し時間がかかった」が、練習以外にチームメートとキャンプに出かけるなど関係は良好だ。「みんなで料理もして楽しかった」。静岡の冬については「いつもマイナス10度以下のウクライナに比べると、ここは暖かい」と明るい表情をみせる。ただ、母親ら家族が暮らす祖国の状況や自身の将来について聞くと、表情が曇る。

「まだ戦争が続いている。将来は(祖国に)帰ることを考えているが、いまは現実的ではない。毎日忙しく、眠い時も多いが、時間があると、ウクライナにいる家族のことをいろいろと考えてしまう…」

長期化する戦争。対立と分断は激化し、「ノーサイド」の気配はみられない。尽きない不安を振り払うよう、自分にこう言い聞かせる。「いまはここですべきこと、ラグビーと日本語の勉強を最大限、頑張る」(青山博美)

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